究極のDIY!これがポスト「リフォーム・ブーム」だ
家族5人で著名建築家設計のスケルトンハウスを手作りしちゃった!
取材・文=大塚常好
ダカーポ 490 (2002 5/1) ダカーポ探検隊204より転載させていただきました

「あーあ、ナベちゃん、何やってんのかなぁ、もう!」
 ナベちゃんこと、渡辺和俊さん(41)はしかられてしまった。
「す、すみません!(ミスを)やっちゃいましたぁぁ」
 すかさず頭を下げる。
 実はこの時、しかっていたのはナベちゃんの長男の鋼クン(小6・12)。子が父をあだ名で呼び、おまけにののしっていたわけだが、さて、何をミスしたのか?
 渡辺さんは家族5人で今、東京・杉並区の高級住宅街に、2階建ての家を”手作り”している。ハウスメーカーに頼らず、週末を使い自力で建ててしまえ、という前代未聞のプロジェクトなのである。
 冒頭の「ミス」とは、まさしくその家をハンドメードする過程で発生したもの。1、2階の床に板(長さ4メートル、幅18センチ、厚み18ミリ)を張っていく作業で、家のデザインに合わせて、部分的に板に食い込みを作らなければならない。これがかなり骨が折れるのだ。
「昔、舞台や展示場なんかの大道具の仕事をしていた」という渡辺さんだが、正確に食い込み部の採寸をしてノコギリで切り、ピタリと凹に凸を入れる力技にして緻密な作業は家族総出の大仕事である。専門の大工さんや施工者にかかれば簡単なのだろうが、なにせ、こちらはシロート軍団。
 父「おーい、のみ、持ってこい」
 子「え、のみ、何それ」
 てな具合。とはいえ、アシスタントの子供たちは遊び感覚ながら、父親の作業を真剣に見守っている。」
 前出の鋼クンはトンカチを手に、
「僕は釘打ち班だよ。板を並べてから釘を打つの。最初は釘がまがっちゃったけど、だんだん慣れてきた。学校の図工より面白い」
 と課外授業ノリである。
「ぜいたくな日曜大工仕事ですよ」
 そうほほ笑んだ渡辺さんの顔も、家作りって楽しい、と言っていた。

1000万円も安くできた

 部屋のリフォームだったらいざ知らず、自力で家を建てる、という発想そのものが現代人にはない。
「第一そんな技術もないし、シロートには手が出せないと思ってました。業者にお任せするしかない」
 渡辺さんもそう考えていたが、ある建築家と出会い、”常識”が変わった。早稲田大学教授・建築家の石山修武さんの存在をネットで知り、大学研究室を訪ねたのだ。
 そこで、「施主と一緒に作る」という基本姿勢や、「オープンテクノロジーハウス」と呼ばれる設計コンセプトに共鳴。何しろ石山さんの自邸もこの方式で、3月に芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した折り紙つきだ。家全体が温室ガラスのスケルトン構造(要するに、「壁」がない)で、本来は温室のために大量生産されている工業デザインの鉄骨とガラスを家作りに”流用”している。こうした斬新なデザインのほかに渡辺さんが気に入った点が家作りの経済的合理性である。
「骨組みの組み立ては造船業のプロに任せますが、内装の多くを施主さんがやることで、コストを30%、1000万円ぐらい安くできたと思いますよ」(石山さん)
 47坪で約7800万円と土地代が安くなかっただけに、質の高い設計その他(骨組み・材料調達など)が1800万円で済むのは朗報だった。それより何より、「家族で家を建てられる!それも日本を代表する著名な建築家が設計したものを!それを私達が建てちゃっていいんですか!?」という感動が強かった、と渡辺さん。
 昨年11月から始まった週末家作り。妻の真千子さん(42)は言う。
「家作りは、子供にとって学校よりも良い勉強の場かもしれません。彼らは自分の部屋(ガラーンと大きな空間を手作りのパーティションで仕切る)を自分で作れることをとても喜んでいます。これなら非行に走ることもなさそうですね。それにこの家は遊び心を与えてくれると思います」
 家を建てるという行為は、人間を成長させていくものなのである。
 ただ、先ほどの苦心の板の床張りも、よーく見れば隅っこは微妙にすき間があいてしまっている。まあ、これはシロート仕事ゆえ目をつぶるべきなのだろうが・・・。

微妙な「すき間」はご愛敬!?

 石山さんはこう語る。 「日本人は住宅に精密さを求めすぎます。1ミリ単位のディティールに執着してしまう。でも、そのことが逆にハウスメーカーのハイコストにつながっているんですね。何百万円単位、千万円単位で、この過剰なこだわりが逆に自分を金銭的に束縛してしまうんですよ。いい加減ということとは違いますが、外国の家のように骨格の基礎がしっかりしていれば多少のすき間は生活者の工夫でしのぐ、という考えがあってもいいと思います」
 現在、石山さんのデザインや、”哲学”に共感する全国の施主から、設計の依頼が舞い込み、伊豆と九州でも建築中だが、「お断り」も多い。「頭のカタイ人は嫌いだから(笑)」(石山さん)である。

渡辺邸

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