ますいハウス
掲載雑誌:GA JAPAN No.49

 


ますいい リビング・カンパニーへ
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ますいい リビング・カンパニーは、これからの時代における、新しい工務店業の一つの在り方を志し、一昨年埼玉県川口市に創設された、まだ活動を始めて間もない新しい建設会社である。
実質的に出発点ともなる仕事として、26歳の主催者増井真也氏より依頼されたのが、これからの活動の本拠地兼自邸となる本建築の設計である。

川口市の中程に位置する敷地は、三本の道路によって切り取られた小さな島のような形状が特徴的な三角地で、一昔前には増井氏の祖父の代からの鋳物工場が位置した、増井氏にとって縁の深い土地でもある。
川口市は地場産業として鋳物工業が栄えた町であり、現在でこそ高層住宅群が目立つものの、周辺の地区は数年前までは鋳物や木型などの小工場がいくつも軒を並べた工場町であった。

人通りが多く、露出度の高いこの敷地に建てる本拠地に対しての増井氏の希望は、新しい会社の広告塔として、何よりも新しい試みを行おうとしていることが人々にストレートに伝わるような設計にして欲しいというものであった。
またもう一つのテーマとして、今後ますいいリビング・カンパニーが提案していく家づくりに対する考え方でもある、施主の積極的な建設への参加方法に関して、その何らかの実験を行いたいということも予め決められた。

この建築で最も印象的な部分、交差点に向けて突き出すような3F部のキャンティレバー形状は、そのような与件から、技術力というものを如何に印象的に、且つ一般に分かりやすい形で、伝えていくかという事に関する、一つの回答として考えられた。

ここで採用されている構造形式は、ちょうど「ヤジロベエ」のようなものである。
橋桁のように組まれた3F床の人工地盤を、中央のフレームのみで支持し、端部にテンションをかけることで安定するように設計されている。ここでは長手方向の地震力を全て中央のフレームのみでまかなうことで、長手方向での壁面で大きなスパンを取ることが可能になっている。
その上にのる3F部分は完全な木造の軸組構造であり、それをより分かりやすい形で伝えるために切り妻形状の屋根を採用した。

建築のもう一つのハイライトになっている、巨大な枕木の屋外階段は、資材の調達から搬送、組立まですべて増井氏と石山研究室スタッフにより、ほぼ2週間をかけてつくられたものである。
使用された材料は、鉄道橋梁用の200角のヒバ製枕木であり、それを140本組み上げることで作られている。校倉づくりのようなデザインは、刻み等の熟練を要する技術がなくてもできるようにということを考えた中で生まれたものである。

建築の建設課程で非常に印象的だったのは、鉄骨の建方から、枕木階段組立、竣工までを通して、場所がら、常に周辺の人々や通行人の高い関心が見てとれたことである。通りがかる人の大半が、時に立ち止まり、呆然と上を見上げる様は少し可笑しくすらあり、その様子はしばしの間続くだろう。 ますいいリビング・カンパニー増井真也氏が今後ここを拠点に、どのように独自の試みを行っていくか御期待頂きたい。石山修武研究室世田谷村地下実験工房としても、幾つかのプロジェクトを通して、微力ながらお手伝いをしていきたい。

石山修武研究室世田谷村地下実験工房  土谷 睦

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