三好シュターク綾のボスニア通信 7

ボスニアで我が家に帰る方法
3.既成事実的住人保護のための法律

我が家の法的所在について、更に紐解いていきましょう。前述の所有権登録簿上、住人と住居の関係を表す権利には、建物の持ち主が保有する「所有権」の他、住居や土地は使用できるが所有者は別の「使用権」、所有権登録簿に登記されていない既成事実的住人に認められる「法的所有権」、「居住権」、「暫定的居住権」などがあります。既成事実的住人とは例えばこういう人々を指します。まず、ずさんな情報管理システムのもと、殆どの社会有アパート(社会有アパートに関しては次回述べます)が未登記であったため、法的根拠無しに数十年同じアパートに住み続けている(元)国営企業の職員や、紛争中に強制追放・殺害された他民族の空き家に住み着いた不法占拠者などです。不法占拠者にまで権利が与えられる法制度には、もちろんウラがあります。

1995年12月紛争終結時に結ばれたデイトン和平合意により、ボスニアは、ムスリム系及びクロアチア系住民が中心の「BH連邦」及び、セルビア系住民が中心の「スルプスカ共和国」という2つのエンティティー(主体)から構成される一つの国家となりました。各エンティティーが個別の法律、教育制度、警察、軍などを有し、完璧に分権化されています。こうして国際社会に政治的・地理的民族分裂が承認されるなか、各民族が勢力図を保持するために、他民族が我が家に帰還するのを法的に妨害しました。例えば、1995年12月には、1996年1月までに(強制追放された)元の住民が法的権利を申請し、家やアパートに戻らなければ、その住居は「放棄」されたとみなし、新たな住民(つまり多数派民族の不法占拠者)に割り当てられるという法律が制定されました。
紛争後の混乱の中、1ヶ月間で法的処理や引っ越しを済ませるというのは経済的、物理的にも不可能で、住宅に関する法律が他民族の帰還を妨害するための、政治の道具として使われていたことは明らかです。

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石山修武研究室
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