週刊建築アーカイブ 週刊建築アーカイブズ 週刊建築
001
[0512] 静けさの寺(パビリオン)

静けさの寺
前面立面図
静けさの寺
後面立面図

 日本フィンランドデザイン協会(会長栄久庵憲司)立案の日本の近代デザインのパビリオン計画である。建設予定地はフィスカース。ヘルシンキ工芸大学学長のソタマ教授を代表とするフィンランドデザイン協会とは数年に渡り、シンポジウム等を介して日本とフィンランドに共有できるテーマがあるか検討を続けてきた。「静けさ」というコンセプトに辿り着いたのが数年前。TOKYOでそれを主題としたフィンランドサイドの展覧会が開催されたのが昨年であった。日本側としてフィンランドでの同様な大展覧会シンポジウムも考えられぬ訳ではなかったが,何とは言えず気が乗らない。展覧会は重要な文化交流事業だが、やはり展覧会であり、おのずからなる限界がある。
 日本の寺のような常設展示場を作ろうか、と言う事になった。フィンランド人に特有なメランコリーな気分への傾斜と、仏教の無常の哲理と呼ぶべきものへの愛好とに共通の架け橋を見い出したのだから、それを直截に表現しようという事になった。栄久庵憲司にはかねてより道具寺の構想があり、それは大加藍の形で大掛かりに計画が進行していると聞く。私がデザインしたのは道具寺が小さく結晶化したものの計画だ。日本に典型的な阿弥陀堂スタイルを主パビリオンにして、それに小さな鐘楼をつけ加えた。フィンランドの森と湖に、ゴーンという日本の寺の鐘の音が響き渡るのも仲々に良いというアドバイスを日本仏教界の方からいただいた。やはり日本を代表する風景というのは♪山のお寺に鐘が鳴る♪なのだとその方はおっしゃった。モダーンデザインの理念、近代建築の理屈は随分小さく思えた。
 生まれて初めて私は伝統的な寺らしい寺のシルエットを設計に取り入れた。我ながら自由になれた様な気分があって良かった。今の案に使っているのは、私が日本で小振りだが最も美しい阿弥陀堂であると考えている、白水の阿弥陀堂だ。
 阿弥陀堂と鐘楼のゾーンの隣りに伊勢神宮の式年遷宮のモデルに習い、完全な空地を設けた。アプローチに最も近いエリアを機能的な俗な世界として構想した。しかし俗な世界にも浄化の機能はある。日本のパブリックな浴場スタイルをそこに持ち込み、身体浄化のスポットとした。そこにはフィンランド文化に特有なフィンランド式サウナを併存させた。
 アプローチから最も遠いゾーンを浄化と名附け、そこはフィンランドの森へと解放されている。中央の空白のゾーンは静けさのエリアである。何も無い。
 このプランは今週。日本の仏教界にプレゼンテーションされる。
 石山 修武

静けさの寺
平面図

静けさの寺
断面図 1
静けさの寺
断面図 2

静けさの寺
建築の仕事
インデックス
ホーム