004
[0507] 森の中の森
三月末竣工予定の森の学校の内部には、タイ製の極上手すきペーパーが貼られた。サーペーパーである。本物の木の葉が一葉一葉紙の中にすき込まれている。森の中に人工の森を作ってみようと考えたからだ。サーペーパーは今施工中の鬼沼前進基地を拠点とする友岡環境研究所の商品である。
ウィリアム・モリス商会のベストセラー、モリスパターンの壁紙は版木によって職人の手でプリントされた。版木による複製技術をもってしても、その壁紙は仲々高価なものになってしまった。職人の労働の質、すなわち労働の喜びを夢見たモリスの栄えある挫折の因であった。今はグローバリズムの嵐の中の時代。タイ、ラオスの手すきペーパーを作る人々に労働の喜びが得られるとは思わぬが、何某かの金銭にはなるだろう。ナイキの運動グツだって中国産の時代だ。その問題はさて置いて、このサーペーパーの壁紙としての使用は建築の内部に不思議な効果を産み出した。無機的な建築に複雑なニュアンスを付け加える事が出来たように思う。
森の風景、姿形は無限に複雑だ。進化を続けるコンピューターの計算能力をしても、その複雑さの解明にはいたらぬであろう。クセナキスの才をもってさえ、複雑の極みにはどうしても偶然の働きを待たねばならなかった様に。
サーペーパーは自然が生み出す成果品である葉を、人間の手がつくり出してしまう不正確さ組み合わせる、二重の偶然によって生み出される。
それが近代の箱に、モリスの壁紙よりも安価に、装飾的効果を生み出している。
グローバリズムが生み出している地域間の距離の消滅によって生まれる逆説的効果である。
石山 修武
|