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■ 倉庫と引出し -8 〜建築のディープポイントへ〜 目の喜び-4
:マテリアルの共鳴による場の空間化
O邸の露地はこの敷地を一直線に貫く軸線上にあり、人間の動きを外門扉から建築までつないでいる。ここを訪れた人間は、まず外門扉と対面し、そこに空けられた窓から玄関までを一直線に眺める視線によってこの空間を最初に体験する。そのとき視線を上にやると同時に、足元に続く露地は玄関となり、そして建築となって現れる。こうした人間の動きの連続でO邸の空間は構成されるため、外部と内部は非常に複雑に流動している。
こうした流動する空間は、その軸線上にしつらえられたマテリアルによって生み出される空間である。具体的に言えば、まず外門扉と玄関には同じステンレス鋼板が使われていて、外門扉から玄関を覗く事でこのマテリアルが互いに呼び合い、場は瞬時に空間化される。そこをくぐると、背の低い外構がある。そこにはピンク色の漆喰と杉板が使われているが、またもや視線を少し上にやると、玄関の向こうに見える建築に同じマテリアルが使われており、やはり互いに呼び合うのである。こうしたしつらえが散りばめられた露地だけが一直線に伸びていて、非連続的な個々人の知覚世界をつないでいる。
利休は一輪の朝顔というしつらえでもって秀吉との緊迫した空間を構成したが、ここでは秀吉という絶対的な1人の権力者ではなく、不特定多数の来訪者を対象としている。つまり視線は多数ある。こうした多数の視線が平面から連続した立体を立ち上げている。
渡邊 大志
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