はじまりに
パガン

 伽藍と名付け、そう呼んでみれば、人はまず建築らしき姿を思い浮かべるだろう。それは、それでしかたない。でも私の計画はその建築の不可能性から歩を 進めてみようと考えたのだ。枠組みの理論はおいおい述べる必要があるだろう。しかし、なのだ。それから始めてしまっては、誰も楽しませることはできな い。自分も楽になれない。
 長い道のりの旅になるのだから、途中で多少の行き先変更だってあるだろう。実は表現手段、方法だってそれほど固定されていない。美術館での展示を手段 としたりもあるかもしれない。北京、上海からのメディア送信もあるだろう。映画作り、動画作りも含まれるだろう。少なくとも DVD 作りは用意しなくては ならない。十二のうち、いくつかの物語計画は、実物の伽藍として、Wを媒介にして立ち上がらせよう。
 それは、むしろ全体の計画から眺めれば容易な部類に属するだろう。そのためにWが役者としても登場してるんだから。
 やっぱり、眠り込んでるな。でも、遠くからの声のように私の言葉は聴こえているに違いない。そのほうが良い。遠くから、はるか遠くの声として届いてい るほうが、今は良いのだ。

 はじまりは、メコンの神殿の物語とする。
 次は、キルティプールの丘、そこの風車群の話し。ここには小さなスクールを作るのを考えてる。
 第三は、フィンランドの森の物語。
 四は、中国大陸、万里の長城のおはなし。
 五番目は、今のところ日本。猪苗代湖のほとりの物語。ここは同時にアジア各地ユーラシア各地の小さなストーリーと連結することになるだろう。
 六番は、日本の小さな島が舞台になる。
 七番は、ロシアです。
 巡礼札所巡りのようなプログラムで、十二番まで決めてはいるが、全体を示すのは、まだいささか早い。
 全ての土地の下見はすでに終わっている。

 物語るうちから、舞台装置が実物の姿形を借りて立ち上がることもあるだろう。先のことは良い。まずは始まりの物語を始めよう。
 W、君の役どころは舞台装置の設計だ。それは建築になったり、時には都市そのもの。今の仕事とそんなにかけ離れたものではない。
 イラワジの流れのほとりの土地も検分してあるのだ。アジア最大の仏教遺跡パガンの、素晴らしいロケーション。はじめの一歩としてこれ以上の背景は望め ない。
 Wは眠っている。部屋にはたくさんの老人たちの影が集まり、聞き耳を立てている。

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