第十六便
まちづくり支援センターの活動もそろそろ第一期のまとめの段階になってきました。『石山商店』がデジタルハリウッド出版局より出版されます。何故こんなことをしてるかの理論にならぬ屁理屈状の釈明やら、こんなことしたいのに仲々できないんだの歯ぎしりが書かれています。それでいつも冒頭に書いていた理屈は省きます。
知り合いに新潟の酒店主、早福岩男がいます。
越後は銘酒の産地です。蔵元は絶大な力と誇りをもっています。そんな地域で早福さんは自分の店のオリジナル商品を出すことに成功しました。「越の五峰」です。越乃寒梅、八海山、千代の光など五銘柄を選んで早福酒店のセット商品として仕上げたのです。流通業が新しい形の商品を作る可能性を示しました。この達人の知恵をいつか真似しなくてはと考えていましたが、ようやくその第一歩をやってみます。支援センターのこれまでの人気商品をセットにしてみました。伊豆松崎町のオリーブ茶、熊本柿酢、五島あごだし、小豆島オリーブオイル、徳之島黒糖などが詰合せの箱にまとめられています。また日々の料理に使えるように調味料もセットにしました。五島の塩、伊万里母ちゃんみそなどが顔を並べています。こうしていくつかの商品が並んでみると、それ程に無駄なことをしているわけではないなと思ったり、人気商品にはそうなるだけの力があるなと、買って下さる皆さんの見識をナルホドネとうなずいたりもしています。しかしながら何とも光明の視えにくい世の中になってきました。もともとがこんなものなのだと知るには少しばかりの時間がかかりそうです。身近な生活そのものを直視してそこから色んなことを考え極めてゆく必要を痛感します。
西の海から。あごだしでおなじみの五島から、自然海塩をお届けします。この塩は特別な生い立ちをもちます。五島灘の清澄な海水を、五人の男たちが工夫して煮つめたものです。五島の味を作り出すことにとりつかれた五人の男たちは五島塩の会を結成しました。塩の会を母体にこの手作りの古風で、しかも精妙な味の自然塩が作り出されています。自然海塩は、海水百パーセントを原料に塩田や、それに似た装置で作る昔ながらの自然塩です。時間をかけて吟味したにがり成分が残されています。西の海のトロリとした円みと甘味の中に走り抜ける荒々しさが、まさに五島列島の海そのものです。間違いようのない天然塩を試して下さい。
昨年夏にアノ日本三景の一つ、宮城県松島に松島さかな市場を設計し建てました。オーナーは気仙沼の大船主、臼井賢志です。この市場が選んだ三陸のぜいたくな味をお知らせします。「いちご煮とむしうにの缶詰」です。三陸の海産物の代表うにとあわびを加工食品として今に適う本格的な味づくりを目指したものです。いちご煮は三陸地方の伝統料理です。特別な客をもてなす時に作られたもので、北の海を想わせる仄かな青が煌めく煮汁の中のうにの卵巣が、凛冽な朝靄に浮く野いちごのような趣があることから名付けられました。味の中に北国の海が拡がります。
私の仕事場の近くで故あってカレーの店を作る手伝いをしました。西早稲田で二十三年独自なカレーを作り続けてきた「夢民(むーみん)」です。六席の小さな店で長い行列が毎日続く名物振りでした。近くにもうチョッと広い店を出すのを手伝いました。毎日、毎週でも食べたかったからです。コノ、カレーは美味です。マ、インドのカレーなんぞは足許にも及ばぬ日本のディテールがあります。本当は店で食べていただくのが一番なのですが、相変わらずの行列で、私だって食べられぬ日が多いのです。そこでたっての願いでカレールゥをレトルトの商品としてまとめてもらいました。私の知っている日本で一番美味なカレーです。無口で無愛想な主人が夜ナベで作っている味です。レトルトだとこの主人の顔を見ないで食べられる利点もあります。
炭が見直され、生活のさまざまに使われだしています。支援センターでも日本中の炭の研究中です。まだまだ情報は十分ではありませんが、これ位のモノなら良いかなの炭を見つけました。竹炭です。長野県明科町でアカシア蜜を作っている尾沢さんと同じ町に住む木下晃さんが、父親が炭焼きをしていた様子を思いおこしながら作っています。竹炭は多孔体で、この気孔が物質を吸着します。消臭、吸湿、保水性などの性質で、水の浄化、ごはんをおいしく炊く、脱臭、乾燥剤、マイナスイオンの発生で部屋の空気を清浄化する、などに力を発揮します。
おなじみになりました森正洋さんの、コレワ楽しい貝の器をお知らせします。
これはスペイン・バレンシア国際工業デザイン展グランプリ“LLAMA DE ORO”受賞の強者です。支援センターの好みは全て森正洋の食器に代弁されています。森さんの食器以上の食器は今の日本にはありません。芸術としての間抜けな孤立をせず、しかも商いのデザインに堕さず、食卓に森閑とした風を吹かせます。おすすめします。
皆さんの力を得ながらカンボジア・プノンペンに建設中の「ひろしまハウス」は、雨期明け十一月に工事再開となります。
一九九八年 秋 まちづくり支援センター 石山修武