まちづくり支援センター

第十一便


ご挨拶・十一

山川草木森羅万象に神を観てきたのが日本人の祖先たちでした。山口勝弘さんの眼玉は時に都市の様々にそんな気配を見てとります。
淡路島一の宮町いざなぎの丘に、淡路島山勝工場があります。ビデオアートの第一人者山口さんの住居であり、アトリエでもあります。阪神淡路大震災の震源地でもあったので一の宮町は大変な被害を受けました。山口さんが着々と進めようとしていた淡路島芸術村構想も一時休止のやむなきを得なくなりました。しかし、山口勝弘には筋金入りの何かがあります。不倒不屈の精神とか執念なんていう俗な言葉では表現できぬ何かです。
前衛精神なんじゃないかと感じていました。時代や周囲の変化に敏感でいながらも変わろうとせずに、周りを変えようとする力です。戦後の焼け跡を体験している人達のなにがしかに共通する強い個性です。バラックの上に広がっていた青空のように遠く抜けている視線の力がそこにはあります。そんな山口さんの眼そのものを是非体験していただきたいと考えました。
「山口勝弘テープ作品アンソロジー」には明らかな前衛精神がみなぎっています。同時に深い叙情がそこに在ることを感じます。神戸の震災の風景を、広島の原爆ドームを視る山口さんの眼は何かの気配も探り当てています。だから、その作品にはある種の民謡や、唱歌そして勝手ながら時に演歌さえも思わせる親近感を感じてしまうのです。前衛っていうのはこんなに懐かしいモノであったのかと仰天しながら引きずり込まれてゆくのです。何処かへ。
いざなぎの丘には日本誕生の神話があります。ここを拠点の一つにした山口勝弘の活動は、大量生産大量消費の現代のシステムを鋭く揺さぶる神話的な広がりを持つものになってゆくにちがいありません。何はともあれ山口勝弘作品をお楽しみ下さい。

おかげさまで三月六・七両日、東京代々木GAギャラリーでの坂田明ソロコンサート「前衛生活」は好評裏に終えることができました。入場料収人の一部は「ひろしまハウスinカンボジア」の建設費にあてさせていただきます。坂田明のビデオ「ミジンコの宇宙」も又、山口さんのビデオと同族同類の必見なモノです。これも又、引き続きお買い求め下さい。

三浦半鳥の先端、長井で海苔づくりをしているのは四軒の家だけになりました。だんだん残り少なくなるモノは確実に良いモノです。原田直樹さんは、濃くて肥えた相模湾で育て、人手をうんとかけた海苔づくりをしています。朝五時から海に出て、手つみで海苔を採ります。洗い、まぜあわせ、水分を抜いてきざみ、すのこに置いて乾燥させ板海苔にします。その日に採ってきたものはすべてその日のうちに板海苔にします。香り豊かで野味あふれる海苔ができあがります。十一月からできる新海苔と一月から春まで採れる二番海苔を、お分けします。

おわりに、ちょっと耳よりな話しを耳うちします。
とろよりおいしいという、まぐろの頭身を入手するルートができました。二百キロのまぐろから二本たった四百グラムしかとれません。この味は言葉にすることができません。
舌の上で星が光ります。キラリと。
まぐろの頭身三本約六百グラムに、大好評の豊かのゆずこしょうをセットにしてお届けしたいと思います。 「豊か」のオヤジのことは度々お話ししました。一度会ってやって下さい。口下手ですが悪い人間ではありません。そのオヤジの季節の料理を楽しみ、味わう会をやります。
申し込んで下さい。
「豊か」にはまちづくり支援センターの品々を見ていただける小さなコーナーも用意しました。
「ひろしまハウス」絵葉書、是非とも引き統きお忘れなく。
よい春をお過ごし下さい。

一九九七年 春 まちづくり支援センター 石山修武


ご挨拶・十|ご挨拶・十二

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