まちづくり支援センター

第十三便


ご挨拶・十三

どうやら未来というのはそんなに楽しいものでもワクワクするほどに豊かなものでもない。退屈で貧しいものなのかも知れない。それが次第にハッキリとしてきたように思います。だからといって手をこまねいているわけにはいきません。退屈な時代を相手に誰でもが自由に精一杯暮してゆきたいと願っているはずです。精一杯な自由とは何だろうと考えます。それは個々の人間の個々の生活の細部の充実ではないでしょうか。世界は益々均質化に向かっていこうとしています。大量生産大量消費による個々人の日常生活でさえも標準化されている現実があります。
支援センターの活動の目的は生活の細部づくりの手伝いです。いろんな町や村でまだまだ作り続けられている様々な細部を、できるだけ沢山の人々に知ってもらおう、そして使ってもらおうと努力してきました。これからもその基本は崩さぬつもりです。

群馬県東毛酪農業協同組合の「群酪ナチュラルチーズ」を是非ともおすすめします。
東毛酪農は利根川の両岸一五〇〇町歩の広大な草地で農薬、化学肥料と無縁に乳牛を育ててきました。野草で育った乳牛は実に良質な牛乳の素です。また、一九八二年より「新鮮で子供たちに安心して飲ませられる牛乳を作ってほしい」という東京の消費者グループの要望に応え、ほんとうにきれいなみんなで作った牛乳ができてきました。筋金入りの牛乳であると言い切ります。群酪ナチュラルチーズはそんな筋金入りの牛乳から本格的にひとつひとつが手づくりでつくられています。もちろん、その生い立ち、背景が立派であるばかりではありません。味もまた、格別なモノがあります。舌の上に、鼻腔中に、きらめく一閃の星が出現します。しかも流れ星の光りではなく、北極星の光りの如くに動じぬ永い光りです。お試し下さい。

うどんは讃岐ばかりではありません。うどんの世界にだって渋く光る細部はあるのです。光ってはいてもあまりピカピカしないので見逃されがちですが、うどんらしく控えめに中身に光るものがあります。群馬県伊勢崎の松本製麺所のうどんをおすすめします。昔ながらの自然乾燥で作られた逸品です。スルスルとたしかに昔どこにでもあったような素気ない飾り気の無さがノドにすべり込んできます。なんとも懐かしい味で身にしみます。

青森県佐井村のヒバ工芸企業組合がオーッと眼をむくヒット作を生み出しました。支援センターオリジナルのひばの木枕も中々の評判ですが、今度はパソコンやワープロのキーボード用手首当てをひばの木で作りました。コンピュータを長く操作していると手首が不思議に疲れます。この「ひばの手枕」をお使い下さい。疲れがひばの木に消えてゆきます。本当です。ともあれ、コンピュータのボタンの感触と「ひばの手枕」の感触との組合せが抜群なのです。

探しても、探しても森正洋さんの食器以上の食器に出会うことができません。これはもう現代の、つまりモダーンデザインの古典というべき風格を持っています。しかも、王者なのに身近です。芸術や工芸の臭みが一切ありません。今回は、そんな森正洋の食器群の中でも逸品中の逸品「G型しょうゆさし」を御紹介します。一九五八年から、ほぼ四十年使われて、使われて、使われ抜いて、それでまだアキがこないと言われる名品です。しょうゆさしのスーパーロングセラー、つまり王者です。四十年の歳月を経てある種の人格さえ感じてしまう、使い易いしょうゆさしです。お使いください。

沢山の人に御心配をおかけしましたが、お陰様で「ひろしまハウス カンボジヤ」の建設が年末より再開されます。益々の御支援をお願いいたします。

一九九七年 秋 まちづくり支援センター 石山修武


ご挨拶・十二|ご挨拶・十四

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