ほぼ音更町の「水の神殿」が完成した。ほぼとかぶせるのは、まだ草や花、樹木、虫や鳥や他の生物の成育には不充分な状態であるからだ。
草木の生育がまだ無い。
七日八日現在、荒々しい土クレの固まりである。
「水の神殿」は庭園である。入口のゲートは土でおおわれたドーム。中ではここに自噴する大雪山系の水が流れ込み、不思議な音、水音が発し、こだましている。
ゲートの天井には様々な装飾状の文様が浮き出ている。ゲートのドームを作った土の地肌や、ムシロ、ゴザ、シート、縄の表情がそれを作り出している。
この装飾状のモノの基本的な図形のパターン、その大まかなのは我々が作りあげた。
しかし、実に大まかなモノでしか無かったので、現場ではアトリエ海の職人さん達が様々に工夫して、彼等もデザインした。
私の理想とするところである。実に色んなモノが洞穴には表現されている。ドームから洞穴へと呼び方を変えたけれど、このゲートは洞穴と呼んだ方がピッタリとくる。
洞穴ゲートを抜けると、小さな噴水群が連なっていて、行手に木のさくと、巨木が鳥居状に浮いているのが視える。
周囲は小高い土手で囲まれている。
入口の洞穴も、土ですっかり覆われている。
ひし形の平面形を持つ、木のサクの中には柳の木で作られた小さなトーテム状のモノがあり、その中心に、高く、グラスファイバーのポールが立ち上がっている。
天空に突きささったポールは中に銅管が埋め込まれて、宙空に水を噴き出している。少しばかり、これは揺れる。
振り返ると、入口の洞穴ゲートにもグラスファイバーポールが高く立てられていて、これは実にゆれる。二本のゆれるトーテムによって、庭園全体の光景もゆれる。
山川草木皆動いているのを誰もが知る事が出来る。
偉い求道の宗教家のみならず、凡人も又、それを実感する。
噴水、これは地下二五〇メートルよりの自噴水である。大雪山系より地下伏流として三百年を経て、ここ迄たどり着いたと言われている。
厳冬期にはこの自噴水は見事に凍結して、神技としか思えぬような水の形を出現させるだろう。
十一時「水の神殿」現場着。顔なじみのアトリエ海の多能工達に再会する。皆真黒に陽焼けしている。仙台から設備配管のプロも、フェリーで北海道に乗り込んでいた。プロが大移動してくれている。とても良い、理想的な現場になっている。 >『世田谷村日記』
ゆれる風景。
動く、ゆれる、そして、たゆとう風景が、この水の神殿の、庭園のデザインの主題でもある。
勿論これは解りやすいと思われるテーマであって、作者としては当然、アニミズムへの表現を根本に据えている。と、大いに強弁を先ずは吐く。
この庭は大雪山の深層地下水を汲み出す庭でもある。大雪山に積り積った雪がゆっくりと融け、更に、ゆっくりと三〇〇年程の時間をかけ、地下を大伏流として流れる。それを、この庭で汲み上げているのである。百年の孤独という焼酎があるけれど、こちらは三〇〇年の沈黙なのである。三〇〇年の地下を伏流として流れている水、それを汲み出して、科学的な手を加え、人間の飲料として、量も適切な超軟水として、商品としている。
この、人間の生命をいつくしむ源としての水を汲み出す装置を、水の神殿と呼ぶのである。水は人間の生命の源の一つである。
だから、この「水の神殿」では大事なモノが全て、ゆれ動く。
入口ゲート、ドームの上の水の神のトーテムポールも全高二〇メーター高さで、風にゆれる。
本殿の自噴水の形も、勿論、風に、光に、時間に、揺れる。
冬には、自噴する水は一部凍結して、地球の力、大雪山の力、地下の力、水の力、そして、風の力、時間のうつろいに、全ての関係の中で創り出された形を出現させるのである。
ここでは、水が主役、草が主役、それを、そよがせる風が、姿を出現させる太陽の光、星の光、そして、その全体を感じる事ができる人間が主役である。
一度、訪ねてみて欲しい。
石山修武
北海道の現場から「水の神殿」の施工写真が送られてくる。ようやく、ドームを作り出してくれた内の土が除去された。次はこんもりと古墳状にドームの上に土を盛る作業に入る。
つまり型枠として使った土のかたまりを、今度は形を作るのに外にさらす。
全長 80 メーター弱の庭園の入口ゲート部分が出来たわけだ。
仙台のアトリエ海の連中は非常に良くやってくれている。七月中旬の完成が楽しみである。
地下二百五十メーターの深層地下水はこのゲートの内にも出現するが、このドームをくぐり抜けたところの木の杭だけで作る本殿の小さなスペースから空高く噴き上る。
不思議な光景が出現するだろう。
今、この深層地下水の容器、およびラベル等をデザイン中である。このプロジェクトは二つの意味がある。
一.水を生産する施設のデザイン、商品としての水の容器、この水の価値を社会に知ってもらうデザインという総合性に取り組む。つまり情報デザインを意識する。
二.水の神殿は庭である。アニミズムを中心に据えた庭の計画だ。この庭の光景の主題は動き、動く、うごめく、さんざめく、つまり「自然」の状態の人工的模倣、結晶化が意識してなされた事である。
石山修武
流線型ドーム
北海道音更町の「深層地下水研究所」と四国のK社が業務提携して作っているのが「水の神殿」である。
この庭園全体を水の神殿と呼んでいる。
深層地下水研究所は北海道の、大まかに言えば井戸掘り探査、及び水質の評価のプロ集団である。
そことK社が共同で、大雪山の地下伏流の清冽な水を汲み出し、高度に品質管理し、販売しようという事になった。
これ迄すでに、ルプチュプという名で深層地下水をペットボトルにつめて少しずつ販売していたのだが、大雪山の、三百年を地下伏流として流れている水は、もっと価値があるに違いないとなったのである。
「水の神殿」公園内に湧き出る水を、近代的な工場で中量生産する事から始めようとなった。公園のことは、勿論おいおい述べてゆくが、先ずは、そのルプチュプのネーミング及び容器のデザインも手掛けるので、その辺りから公開してゆく事にしたい。
今夏には増産体制もととのう予定なので、全国に販売店を求めたい。興味、関心のある方は研究室の「水の神殿」担当迄メール他で連絡して下さい。
流線型ドームの内側より
すでに土は取り除かれている
流線型ドーム
流線型ドームのかたちが現れる
流線型ドームの基礎を打設
流線型ドームの鉄筋を配置
流線型ドームの廻りに掘られた溝
シートをかけた、流線型ドーム作成の為の大きな土盛
入口洞穴の天井の装飾パターンをフリーハンドでアトリエ海の佐々木さんに送附する。当初は鳥の如くの飛行物体をイメージしていたが、現場の職人さんの手間も考えて、抽象化した。
細い縄とムシロの組合わせとする。
バーコード状のグリッドは消して、ムシロの数量を大幅に減らした。
意図的に精度の無いフリーハンドの作図として、職人さんの現場感覚に任せるデザインとする。
又、このパターンも二名の手を混ぜて、一人で全てをコントロールする不自由さを意図的に避けた。
アトリエ海からの返事を待つ事にする。
庭園の入口ゲート、流線型ドーム作成の為の大きな土盛
「水の神殿」北海道十勝音更の建設が本格化するにあたり、一連のメディアデザインが発生する。 その総合的なデザインの進行状況を公開したい。 その事で、「水の神殿」および、それを中心とする各種メディア性を帯びた商品群に関心を持っていただければ幸いだ。