プノンペンより
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近代能楽劇場 38〜44 渡邊 大志
近代能楽劇場 in ひろしまハウス
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「ぐるぐる能舞台」と「一人用超サブリミナルシアター」
2006/05
1. 立体的に織り込まれ、ぐるぐる廻る
2. かたち(舞台装置)ではなく、巡りくるひと(意識)のデザイン・能面、足袋
3. それぞれの退屈な日常から小さな旅へ
4. 身体から切り離された意識が感じるモデル
5. 意識の地図
6. 全く関係のない2つの物語
7. 終わりのない、始まりのない
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1. 立体的に織り込まれ、ぐるぐる廻る
旅をするにつれて、意識の地図が立ち上がっていく。それは当然人それぞれ違うものである。長い道のりを歩いていくにつれて意識の地図が展開として立ち現れ、それがぐるぐる廻りながら空間を形作っていく。つまり意識が空間を紡いでいく。ひろしまハウスの内部に入るとまたもやぐるぐる廻りながら昇っていき、仏足に至る。仏教には輪廻という概念がある。ここでもまた終わりは始まりに戻り、演劇と日常の区別はなく、ぐるぐる廻る。
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2. かたち(舞台装置)ではなく、巡りくるひと(意識)のデザイン・能面、足袋
螺旋状を描くのは舞台装置ではなく、巡りくるひとの動線である。その人たちの顔はみんなお面で覆われている。「千と千尋〜」の顔なしのように肉体はできるだけ抽象化され、意識だけがむき出しにされた世界である。顔なしに足がないように、歩く人々は地面という現実空間から切り離されている。そしてそれは、ふっと消え去ってしまう空蝉の姿である。能面と足袋とは巡礼する人々の肉体をとりさるための舞台装置に他ならない。
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3. それぞれの退屈な日常から小さな旅へ
奥行き(空間)のないフラットな面 脳内空間
歴史的にみてみれば、明治維新以降日本へ輸入されたヨーロッパの近代建築を学ぶまで日本人は透視図法を知らなかった。もちろん北斎などの江戸時代の一部の知識人は知っていたが、私たちはもともと透視図法の世界の外にいた。菱川師宣の「見返り美人図」の様に描かれた絵はフラットでも見る人の頭の中に女性がこちらをふっと振り返る、動きのある立体を生み出すことができた。それが今の日本のアニメーションの原点にある。
私たちが毎日繰り返す日常はこうしたコマの連続する小さな旅である。退屈な日常空間の方が今やよほど革新的である。それに気づいてしまえば、たちまち日常が演技的なものに変質していく。
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4. 身体から切り離された意識が感じるモデル
キースラーのエンドレスハウスは言ってみれば卵型ドームであるが何も建築の形が丸い必要はない。ただ、キースラーの生きた時代にそれを表現させる技術がそれしかなかっただけに過ぎない。
私たちは産業革命以来の技術の発展によって実際に宇宙まで飛んでいって地球を自分達の目で見たが、インターネットというもっと大きな革命を日常的に体験している。そして私たちの頭の中にはもう一つの地球のモデルが既にある。それは極めて個人的な地球で必ずしも丸い形をしてはいない。こうして私たちは約一世紀閉じ込められてきた箱から頭だけをなんとか出すことができた。やっと頭だけは自由に飛んでいくことができる。
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5. 意識の地図
旅をするには地図が必要だ。地図とはすなわち世界そのものである。仏教で言えば曼荼羅に当たる。ただし意識の地図は全体を把握することはできない。山口勝弘「顔曼荼羅」の様に1コマ1コマを追体験して初めて空間を体験できるものである。
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6. 全く関係のない2つの物語
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ひろしまハウスでのオープニングセレモニー「ぐるぐる能舞台」をマテリアルとして「一人用超サブリミナルシアター」という全く別の舞台が生まれる。それは実際に巡礼をした一人一人の記憶によって組み直されたバーチャル劇場である。より他者の意識に直接触れるものであり、そのために巡礼者の数だけ劇場が存在することになる。巡礼者自身が思い描いた意識の世界そのものが演劇空間であり、それを第三者がインターネットを通して観劇する2つ目の物語である。
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7. 終わりのない、始まりのない
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一枚のカバーが本をぐるりと包み込む。それを外して開いてみれば、5つのコマに描かれた一枚のストーリーを見ることができる。包み込まれる物語もまた大きな一枚の大きな紙に描かれ、折り畳まれたものである。この一枚の巻物が一冊の物語を緩やかに包み込み、さらにその内部へと貫入し、ついに始まりも終わりもない空間を生み出す。能舞台とはいわば一枚の展開に描かれた個人のストーリーが別の物語と相互貫入して織りなされたエンドレスな空間である。
ミースが唱え、「2001年宇宙の旅」でも描かれた20世紀型未来像のユニバーサルにそろそろ別れを告げなければならない。ヒントは神の視点(平面)ではなくむしろ大衆の視線(展開)にある。
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