1.2002年、星の子愛児園(神奈川県川崎市、石山修武研究室設計)
	
	2.象を丸呑みにしたウワバミの絵、Le Petit Prince
	(http://www3.sympatico.ca/gaston.ringuelet/lepetitprince/chapitre01.html)
	
	3.星の子愛児園増築 第一次案(石山修武研究室、2013)
	
 
	2013年9月現在、神奈川県川崎市の保育園、星の子愛児園の園舎その他の増築計画を進めています。今後その進捗を本ウェブサイトにて公開していきたいと思います。
	
星の子愛児園の敷地内に既に建つ園舎は、2002年に石山修武研究室が設計したものである。全長約50m程で東西に細長く延びる建築である。南側には広い園庭を備えている。1階2階は各保育室があり、比較的機能的に明快な平面配置と、水平垂直の直線の組み合わせの造形で構成される。3階はピンク色の表面の有機的な造形のシェルターとプールが架けられ、下階とは造形ニュアンスが著しく異なる。
そもそもこの建築の設計依頼を受けた際、クライアントであるこの保育園の経営者からは「コルビュジェとサン・テジュクペリを組み合わせたものを」という希望があった。そこで、近代建築の構成原理を土台として、サン・テジュクペリが描いたような子どもの想像力の物語をその上に展開することが試みられた。
	
サン・テジュクペリの小説『星の王子さま』の中で、象を丸呑みにしたウワバミの絵の話がある。主人公の子どもが、「象を丸呑みにして腹がそのまま膨れたウワバミ」の絵を大人たちに見せても、彼らはそれを「帽子」としか見ることができず、主人公の言うこの絵のおどろおどろしさを理解出来なかったというエピソードである。ウワバミはその獲物を噛まずに丸ごと呑み込み、その獲物をじっくりと腹の中で溶かし(こなし)ていく。子どもである主人公はウワバミの腹の中のその恐ろしい世界を想像したが、その感覚は大人たちには理解されず、彼らの表面的に役立つことばかりを考える世界の枠の外にあるものであった。主人公はその時大人たちとの間の壁を実感するが、次第に彼もまた大人たちの一員となっていくのである。
	
子どもの想像力は大人たちの固まった価値観の枠外を容易に飛び越え、またそれは先の物語のように純真なものだけではなく、素朴さ故の残酷で狂暴なものでもある。星の子愛児園の建築では、物事を何かに決めつけ統一させてしまわない、バラバラとしたざわめきのような子どもの想像力の助長を、その建築の姿に託したのである。四角い箱の上に載せた、彎曲した自由曲面からなる得体の知れない造形によって、子どもの怪物如き想像力の居場所を見つけ出そうとしたのであった。
	
そして、これからの増築においてももちろんその主題は通底しており、2002年に考えられていたことの延長線上の展開の先にある。子どもの想像力の居場所をいかにして作るか、またそこで働く大人たちも含めた子どもと大人が共に居る姿は如何なるものかを構想している。第一次の増築計画案はその考えを立体的な構成を取りながら、半ば直截的な表現によってまとめたものであった。けれども、想像力という不可視の実感というものを採り込んだ建築の姿としては、まだまだ未成熟なものであることもまた認識している。とは言え、この未成熟さを消しきらずにいかに今後飛躍できるかが、大人になろうともする危なげな子どもの想像力の未来と同様にこの建築においても重要な核になるだろう。
	
2013年9月12日
	
佐藤研吾