ベイシー 菅原正二
岩手県最古のジャズ喫茶、大槌町「クイーン」が巨大津波に呑み込まれ跡形がなくなってしまった。マスター佐々木賢一は極どく娘さんと一緒に逃れ一命をとりとめたが、同じジャズ仲間の”会長さん”と呼ばれていた菅谷義隆さんはみんなのクルマの誘導をしているところを津波にさらわれたという。
連絡もとれず。
このことを知ったのは賢ちゃんが三月二十日に突然「ベイシー」に姿を現した時に知った。
内陸部の我々は、地震の被害だけで津波の被害はその比ではない。
釜石「タウンホール」の金野克人君の今後のことも心配である。
すぐさま支援活動を始めているところに関西方面のジャズ・ファンから電話を頂戴した。
「東北のジャズ・ファンの支援コンサートを企画しているので、確実にジャズ関係者の手に渡るように窓口になっていただけませんか?」という有難い申し出であった。
「ぼくも”阪神淡路”の時は、カウント・ベイシー・オーケストラの興行を打って、リーダーのフランク・フォスターに淡路島から来て頂いた倉本さんというお医者さんへステージ上で直に渡して貰いました。」困った時はお互いさまだ。
ぼくはこの申し出を甘んじてお受けすることにした。
そして花巻市のジャズ仲間、浅野昌吾君に事務局となって貰い「岩手ジャズ喫茶連盟」の口座を開設した。※
盛岡ほか県内外の仲間も全面協力するという。
「岩手ジャズ喫茶連盟」というのは1980年に岩手にカウント・ベイシー・オーケストラを呼ぼうというあたりから発足したものであるが、いわゆる「行政」とは無関係の地下組織であるから「岩手県」という県境の線引きも何もない。そして実際にジャズ喫茶を経営している、いないにも関係がない。あるのは「ジャズ・ファン」という「志」だけ。
今こそ、この「志」をひとつにするときだと思う。